1月9日(土)シアターコクーン19時開演の
「元禄港歌-千年の恋の森-」を観に行きました。
<タイムテーブル>
公演プログラムは2000円。
元禄文化の事や、瞽女の歴史、劇中で舞う能「百万」の解説、
モチーフとなっている「葛の葉子別れ」の歌の説明や、
初演時の話等、盛りだくさんで歴史の勉強にもなりました。
特に興味深かったのは、キャストの対談コーナーで、
猿之助さんが語る女形の基本姿勢というようなもの。
「女性は年をとるごとに身体の前で手を置く位置が下がる」
とか「男は首で振り向き、女は胸で振り向く」とか…
女性でもこういう基本姿勢を意識して日ごろから取り入れたら
エレガントに見えるのかな、なんて思ってしまいました。
作:秋元松代
演出:蜷川幸雄
音楽:猪俣公章
劇中歌:美空ひばり
<出演>
市川猿之助、宮沢りえ、高橋一生、鈴木杏、市川猿弥、新橋耐子、
段田安則、青山達三、大石継太、市川弘太郎、市川段之、
市川猿三郎市川澤五郎、市川裕喜、市川段一郎、市川澤路、
市川笑羽、市川郁治郎、市瀬秀和、清家栄一、妹尾正文、手塚秀彰
岡田正、飯田邦博、塚本幸男、新川將人、堀文明、澤魁士、石井淳、
石母田史朗、後田真欧、由利昌也、水谷悟、西村聡、石原由宇、
萩原亮介、立和名真大、山本道子、加藤弓美子、羽子田洋子、
難波真奈美、小澤美和、美奈瀬杏、菅野園子、三輪裕美子、
土屋美穂子、棟形寿恵、今井あずさ、今橋由紀、舩山智香子、
沖田愛、山田麻里名阿部優哉、前田えると、大内天、庄野琉惺
鹿島由愛、林日葵、安生悠璃菜、萩原羽奈、大石未来、
小熊莉々葉、河合陽子、福岡沙彩
<あらすじ>
元禄時代の大商店・筑前屋を舞台にした作品。
三味線を弾きながら各地を転々とする盲目の女芸人たち、
瞽女の「母親」として生きる糸栄の秘密や、自分の出自に
疑問を持ち、糸栄こそが自分の本当の母親だと確信していく
筑前屋の長男・信助と、瞽女の娘・初音の恋を描く。
結末も含めたさらに詳しいストーリーは公式HPへ ↓
http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/16_genroku/
<第一幕>
一、播州のある富裕な港町・船着き場
<第二幕>
一、廻船問屋筑前屋の座敷
二、筑前屋の庭に面した裏座敷
<第三幕>
一、唐崎寺阿弥陀堂
二、筑前屋裏座敷
三、唐崎寺境内・能舞台のある広場
実際には二幕なのですが、上の6場面の間の暗転がけっこう長い。
初演から36年ぶりの復活との事で、去年の「NINAGAWA マクベス」
といい前回観る事が出来なかった名作の再演がどれも素晴らしい!
始まりは暗闇の中で一ヶ所だけにライトが当たる、人形浄瑠璃。
その後全体に光が当たると、椿の木が生い茂った森の中に
いるような気分になりました。始まりから終わりまで
椿の花が上から落ちてくるので、舞台上が椿の花だらけ。
落ちた時にけっこうな音がするので、気になりました。
真っ赤な椿の花が血のしずくのようにも見え、不幸への
カウントダウンのようでもあり、不安感をあおり、ちょっと怖かった。
三味線弾きを生業とする瞽女(盲目の女性)集団には
堅い約束事があり、旅先の男性とは恋に落ちてはいけないとの事。
集団の長であり、座元・糸栄を市川猿之助さん、同じく瞽女・初音を
宮沢りえさん、瞽女ではあるが、目の見える歌春を鈴木杏さんが
演じましたが、猿之助さんの女形が素晴らしくて、歌舞伎が観たくなった。
筑前屋の長男・信助(段田安則さん)と初音、筑前屋次男・万次郎
(高橋一生さん)と歌春の許されざる恋、信助と糸栄の親子愛、
万次郎を溺愛する母お浜、といろいろな形の愛情がちりばめられた
物語だった。猿之助さんが、プログラム中のコメントで
どこか神話っぽく、結末がちょっとギリシャ悲劇にも似ている、
と書いていましたが、そう言われてみればそうかも。
筑前屋の座敷で披露した瞽女達の三味線弾き語り「葛の葉子別れ」は
素晴らしかった。この話は歌舞伎の演目にもあるとの事。
千年の森の奥から恋しい男のため白狐となり逢いに来た女が、
人里の男を恋した罰に生まれたばかりの子と別れて再び森に
帰らねばならぬという悲しい物語。旋律も物悲しかった。
万次郎と旦那衆が舞う能楽「百万」も生き別れになった
我が子と再開する話。
客席通路をふんだんに使った演出も良かった。
宮沢りえさんのはかなさと悲壮感がたまらなかった。
初音は当初信助をあきらめて瞽女の掟に従おうと
必死に自分の気持ちを押し殺そうとするのですが、
信助の強い想いにあらがえず、恋に落ちていく。
そして二人が会う阿弥陀堂の薄暗くて、長期間風雨に
さらされて風化した様子のセットがリアルすぎて
近くでじっくりと見てみたいくらいだった。
しいたげられた念仏信者達の念仏も耳に心地良かった。
信助が能を舞っている時に毒薬をかけられ、目を覆いながら
苦しむシーンでは舞台奥に毒々しい真っ赤な巨大満月が登場。
信助の母であることを隠して生きてきた糸栄が、目から血を流し
盲目になってしまった信助に駆け寄り「会いたかった、会いたかった…」
と号泣しながら何度も何度も告白するシーンは涙腺崩壊。
その後、「おっかさん、もう泣きはるな。
わしは両の目を失のうて、母と女房をもろうたのや。
幸せに出会うたのや」という信助の台詞にさらに泣く。
「葛の葉子別れ」の悲しい歌と三味線の音色がまだ頭の中でグルグル。
方言による台詞もやわらかくて、心に響く感動の舞台だった。