5月11日(水)俳優座劇場14時開演の
「乳房」~天上の花となった君へ~を観に行きました。
企画・台本・演出 : 合津直枝
出演 : 内野聖陽 / 波瑠
<あらすじ>
酒とギャンブルに明け暮れる不良中年の演出家の私は、
明るく純真無垢な新人女優・里子と出会い結婚する。
しかし、まもなく里子は不治の病床につく。私は
その現実から逃れるように夜の街をさまよう。
「飲みに行ってきて!」刻一刻と死が近づく時間の中で、
里子はいつにも増して明るく振る舞う。
やがて、ふたりの愛おしい日々が甦り…。
原作となった「乳房」は、演出家・憲一と、妻・里子の
闘病生活を描いた伊集院静さんの自伝的小説。
伊集院さんはこの小説で、吉川英治文学新人賞を受賞しています。
開演前のスタッフによる注意喚起が面白かった。
「携帯電話の電源はお切りください。しばらく電源を切っていなくて
切り方が分からないよ、というお客様は、スタッフがお手伝い
致しますので、お声がけ下さい」と言いながら、客席を
周るスタッフ。電源を切っていなかったお客さん達が
一斉に携帯を取り出し、スイッチを切っていました。
角が立たず、笑いをとりながら、スイッチのオフを
自然とうながすスタッフの対応に拍手を送りたいくらいだった。
だがしかし、この日はビニールカシャカシャ音、手をボキボキと
鳴らす音、いびき、大音量の咳払い音で気が散りました。
生理現象なんだから仕方がないでしょ、というレベルではなかった。
発作?このままだと吐くんじゃないか、と心配なレベルの人もいた。
咳払いに関しては、先日どこかの劇場で「咳払いによる苦情が
多くなっております。ハンカチで口元を押さえるなどのご配慮
をお願い致します」という注意喚起をしていましたが…
ダンディな不良中年・憲一役を内野聖陽さんが演じ、妻・里子を
夏目雅子さんの再来と言われる波瑠さんが演じる、という最強コンビ。
朗読劇と言っても、お二人とも台詞を暗記していらっしゃっていて、
本は手に持っているものの、視線はほとんど本には移さず、
演技されていたので、ストレートプレイでした。
上手には壁と椅子とテーブル、下手には、後半病室のベッド代わりに
使われる椅子、というシンプルな舞台。音楽や効果音もあり、舞台奥に
月や花火が投射され、二人の世界をより濃厚に感じる事が出来ました。
里子の死後、病室の壁にかけられたひまわりの絵をはずしたら、
そこだけが日に焼けないで白くなっていた、というラストに
7ヶ月という壮絶な闘病生活がどれほど長く辛いものだったか、
という事を想像させる悲しすぎるエピソードだった。
ショートカットが良く似合う波瑠さんに、在りし日の
夏目雅子さんを思い出し涙… (T_T)
デビューのきっかけとなった化粧品のCMの撮影が、
砂漠で行われた事から♪月の砂漠の歌を歌うシーンが
出てくるのですが、発病後に病室で満月を見上げながら
弱々しい声で歌われたこの歌。聴いていて胸がしめつけられた。
「病気になったおかげで、今までで一番長く憲一と一緒にいられる。
憲一を独り占めできる」、と言って喜ぶ里子。憲一への
深い愛を感じ、そして弱った体でなお、夫の健康状態を
気遣うけなげな里子にさらに涙止まらず…
内野さん、豪快でぶっきらぼうなところが役にピッタリだった。
里子のまっすぐで激しい愛情に当初とまどう憲一。
自分と結婚したから、病気を発症してしまったのでは、と苦悩する日々。
涙をこらえ、平静を装いながら里子を看病し、トイレに行った時に
泣く姿にも涙腺崩壊。客席からも鼻をすする音が…
命の大切さ、とか骨髄ドナーの事とか、
いろいろと考えさせられた舞台だった。
<夏目雅子さんの病気について…>
1985年2月14日、舞台『愚かな女』の公演の最中
10円玉大の口内炎が出来、さらに激しい頭痛等極度の
体調不良を訴える。それでも泣きながら「這ってでも舞台に戻る!」と
頑なに出演続行を望む夏目さん本人を何とか説得して、共演の
西岡徳馬さんの勧めにより翌2月15日慶應義塾大学病院に緊急入院。
急性骨髄性白血病と診断を受けるが、夏目さん本人には
「極度の貧血」とだけ告げ、本当の病名を伏せていた。
すべての仕事をキャンセルして懸命に介護した
伊集院さんの祈りもむなしく、27歳という若さで亡くなった。
実家にいるとき、家族全員夏目さんのファンだっただけに、
亡くなったと聞いた時はショックで呆然としたのよね。
太陽のような明るさと、月のようなミステリアスさ、
両方を持っている妖艶で品のある素晴らしい女優さんだった…(ノω・、)